vol.91

教科書を超える教材研究を
社団法人日本図書教材協会理事
東京学芸大学名誉教授
杉山 吉茂

  教科書をなぞって授業をしている人は多い。小学校の場合は、教科の専門家ではないので、そうせざるを得ないであろうが、ベテランの先生、あるいは、研究授業でも、教科書をなぞる授業を見せられることがある。教科書は、それぞれの教科の専門家が集まって話し合いの上作られたものなので悪いものではないが、特別よいものというわけでもない。書いてある通りに授業をすれば、誰でもそこそこの授業ができるように教科書は作られていると考えたほうがよい。教科書を作る人が、もっとよいものにしようと考えたとしても、教科に通じていない人には使うことが難しいような教科書では受け入れられまい。

 教科書をなぞれば、そこそこの授業ができることが保障されているのが教科書だとすると、教科に通じている人、長い間教育に携わっている人には、もっとよい授業をして、若い人に見せてほしいと思う。

 進んだ人には、教科書を離れた授業も見せてほしい。中高一貫の灘校で50年間教壇に立った国語の橋本武先生は、中勘助の『銀の匙』を中学校の三年かけて読み込むという授業をしていたという。頻繁に出てくる知らない言葉を丁寧に調べ、興味をもったことを追求するので、脱線だらけの授業になる。教育は知識を伝えることではなく、学ぶ姿勢を教え、やる気を起こすことだと橋本先生は考えているので、興味をもったこと、疑問に思ったことを追いかけさせる。

 だれでもできることを求めることが科学的だと考えられ、名人芸のような授業を否定する人がいる。「だれにでもできること」を求めることが、安易なところに止まらせる原因になっていないかとも思う。大事なことは、名人芸のような授業ができるように努力することだと思う。名人芸の競いあいがよい授業を生み、よい教科書へと昇華されるようになってほしい。

〜図書教材新報vol.91(平成24年11月発行)巻頭言より〜