vol.89

教科書のデジタル化について思う
社団法人日本図書教材協会理事
上越教育大学名誉教授
新井 郁男

 教科書のデジタル化が政策課題として浮上し、試行が行われつつある。教科書研究センターが実施したデジタル教科書の実地調査に全体のまとめ役として参加し、さまざまな実践について見聞するにつけ、多くのメリットがあることは想定されるが、同時に、多面的かつ慎重な調査・検討が必要であることを実感している。

 教育の情報化については、一時期、プログラム学習とかCAI=computer-assisted instructionといった学習指導方法が、教育工学を中心として研究、実験、実践がかなり行われ、注目すべき情報化教材が考案・開発されてきている。しかし、これまで多くの学校の授業を見てきたかぎりでは、教師については、それに熟知・習熟している者とそうでない者との間の乖離が大きく、学校現場に定着しているとまでは言い難い状況である。OHPのような単純な機器すら使いこなされてきたとは必ずしも言えないであろう。

 昨今は、パソコンに接続できる実物投影機としてのOHC、電子黒板など技術的に進化した多様な情報機器が開発され、学校に導入されつつあるが、乖離は一層大きくなっている部分もあるように思われる。

 こうしたことなどを考えるならば、教科書のデジタル化、特に、児童・生徒用の教科書のデジタル化について検討しなければならない課題は極めて大きいと言わなければならないであろう。ただ単に、教員の研修で隘路打開を図ろうとするだけでなく、これまでのイノベーションが何故に所期の成果をあげてこれなかったのかを、経営学、心理学、社会学などさまざまな観点から総合的に検討・研究を行うことが必要であろう。

〜図書教材新報vol.89(平成24年9月発行)巻頭言より〜