vol.207

学力調査問題の教材としての役割
一般社団法人日本図書教材協会理事
筑波大学人間系教授
清水 美憲

全国学力・学習状況調査(以下「全国調査」)や各自治体による国内の学力調査、そしてTIMSSやPISA等の国際学力調査は、学校教育の現状把握のための重要な指標を提供するものとして、教育改革や学習指導の改善に様々な形で寄与してきた。このうち、平成19(2007)年度にスタートした全国調査の実施は、その後様々な経過を経て今日に至っている。

当初の対象教科の国語科と算数科・数学科に加え、理科や英語科の調査も3年おきに実施され、「知識」と「活用」の区分での出題は見直された。また、現在は、試行・検証を踏まえ、パソコンやタブレット上で解答するCBTへの移行の準備が進められている。

これまでの全国調査の実施とその教育界への影響で特に注目されるのは、そのデータが教育政策策定の根拠となるばかりでなく、出題された問題を通して、育成を目指す資質・能力について、教師が当事者性を持って学ぶ機会を提供してきたことである。

例えば、平成24(2012)年度に中学校数学科で出題された「スキージャンプ」は、長野オリンピックで金メダルを獲得した原田雅彦選手と船木和喜選手の実際の記録を分析し、代表選手として選ぶなら、「一発勝負型」の原田選手がよいか、安定的な結果が期待される船木選手がよいかを、生徒に考えさせる問題であった。実は、データの分布の特徴や代表値を根拠に十分な説明ができれば、どちらの選手を選んでも正解であり、「答えが2つある数学」としてTVのバラエティ番組でも注目された。この出題は、学校現場の教材研究や教員研修でも注目され、新学習指導要領における統計教育の充実を先導する形となった。

全国調査は、その分析結果の提供に止まらず、調査問題の特徴が、新しい教材開発のヒントになり、また、教員研修における共通の「言葉」(ディスコース)を提供するものとなってきた。調査問題を利用した「授業アイディア例」による具体的な教材の提供に止まらず、教師のための教材、教材作成者にとっての教材を提供していることに注目したい。

〜図書教材新報vol.207(令和4年7月発行)巻頭言より〜