vol.202

「いのち」と教材について
一般社団法人日本図書教材協会前副会長
国立教育政策研究所名誉所員
川野辺 敏

超高齢社会を迎え、2025年には国民の四人に一人は65歳以上になるという。『95歳まで生きるのは幸せですか?』(瀬戸内寂聴・池上彰著 PHP新書)というような本さえ出版される時代である。この時代の上位にある私などは、時代の流れに振り回されながら、『すべてには時がある』(NHKこころの時代、若松英輔・小友聡著 NHK出版)などといった言葉に心を動かされながらも、漠然と日々を過ごすばかりである、そして、自分のことと同時に、教育に携わってきた同僚の皆さんや、間もなく同じような時代に生きざるを得ない高齢者予備軍の皆さん個々人はいかにこれからの時代生きるべきかなど、余計なことを考えてしまう。

そんなとき、テレビの世話になることの多くなった高齢者の私は、たまたま、終末期医療に携わり、3500人ほどの患者と向き合った医師(柏木哲夫氏)の話に遭遇し、興味をひかれた。彼は、講演会などに呼ばれると「生命」と「いのち」の違いを話の導入に使っており、特に「いのち」の大切さを強調していたという。死期を迎えている人々の殆どは、これまでの生き方を見返しながら「自分の適性を生かして、他に役立つ仕事をやっておきたかった」とも語っていたというのである。

この話を聞きながら私は、生きている人間のすべてに関わっている「いのち」という言葉を教育界では避け気味であったのではないかと、感じてしまう。元気いっぱいの子どもを前にしてあまり使いにくい言葉かもしれない。しかし、今だからこそ、教材作成に情熱を傾けられている皆さんには、「いのち」を主題に置き、研究・作成するよう願うばかりである。

―高齢者の思い過ごしであると願って。

〜図書教材新報vol.202(令和4年2月発行)巻頭言より〜