vol.131

辰野先生を偲びながら
日本教材学会会長
一般社団法人日本図書教材協会副会長
川野辺 敏

 戦後70年という言葉が氾濫したが、1990年以降の教育改革は半端な言葉では言い尽くせない内容を含んでいる。小・中・高校は生涯学習の基礎を培う教育の場と位置付けられ、既存の知識を習得する「蓄積型」から「活用・開発型」への転換が迫られている。具体的には「生きる力」の基礎として「子供自ら学ぶ力・心豊かに生きる力」の調和的発達が期待され、2011年度以降の学習指導要領では「基礎的・基本的知識・技能の習得」に加えて「思考力・判断力・表現力」、さらには「学習意欲」の向上が目指されているのは、周知のとおりである。国はこれまで手を付けてこなかった大学入試センター試験でさえ、20年から記述試験等を加え、創造性や活用能力を重視した試験を導入する計画を進めており、これが施行されれば、まさに終戦直後の教育改革に比肩する大改革の実現ともなろう。日本流にいえば、知識を超えた「知恵」(物事を思慮し、計画し、処理する力=広辞苑)の育成であり、国際的には「コンピテンス」重視の教育への転換である・・・・・。

 こんなことを反芻しながら教材の在り方を考えていた矢先に、突然の電話で本協会の顧問であり、教材学会の初代会長として教材の充実・発展に多大の貢献をされてこられた、辰野千壽先生の訃報が伝えられた。「図書教材新報」(Vol.129号)の「学習でフロー体験を」という巻頭言を読ませて頂いた直後のことである。先生は子供たちが「流れに乗っているような状態=学習活動に夢中になり、注意を集中している状態」の授業を期待し、そのような状態を支える「教材づくり」を提言されていたように思う。おそらく先生の最後の文章となったであろうこのご提言を重く受け止めながら、新しい教育観に立った教材づくりに「一層の努力を」と呼びかけられたのではなかろうか。

〜図書教材新報vol.131(平成28年3月発行)巻頭言より〜