vol.113

終戦69年に思う 戦中体験の教材化
一般社団法人日本図書教材協会理事
星槎大学大学院教授
新井郁男

 終戦から69年が経った。終戦のときは11歳であった。思い出されるのは、終戦1年前の8月に始まった集団学童疎開のことである。私は杉並区の第九国民学校3年生で、疎開することになった。疎開地は長野県の上田に近い山間地にある霊泉寺温泉というところであったが、出発日の夜には向こう三軒両隣のおじさん、おばさんたちがわが家で歓送会をしてくださった。その後、校庭に集合し、旗を振りながら勝ってくるぞと勇ましく、といった歌を歌いながら駅に向かった。学童疎開は、ほとんどの子にとって親から離れて生活する初めての体験で、現地では毎夜のようにふとんのなかで涙を流していたが、出発の時は、出征兵士として送られるような高揚した気分であった。普段から、近所で出征兵士が送られる様子を見ていたからであろう。

 しかし、後年はっと気が付いたことは、出征兵士を送る会は戦死するかもわからない人を送る会であったのに対して、学童疎開は学童を死なせないようにすることが目的で、死ぬかもしれないのは後に残る家族だったということである。われわれの集団ではないが、現実に、家族と死に別れ孤児になった学童が多くいたのである。

 昨年、疎開先に家内と一緒に訪ねてみた。かつての家屋などが寂れてきたという感じであったが、当時を知る人に会うことはできなかった。学童疎開については本も出ており、私も小学生に話したことがあるが、いま思うことは、こうした当時の体験をいまの子どもたちに知ってもらう教材をつくれないかということである。

 なお、われわれは墨ぬりの教科書を経験した世代でもある。そんな教材に関する体験も今の子どもたちに知ってもらいたところである。

〜図書教材新報vol.113(平成26年9月発行)巻頭言より〜