変われば進歩?

       社団法人 日本図書教材協会理事
       東京学芸大学名誉教授
       杉山 吉茂

 昨年の10月末、検査に行った病院で、突如入院するように言われ、1月余入院を余儀なくされた。最初は戸惑ったが、あり余る程の時間が与えれらたことを有難く思い、読もうと思っていた本を読むことにした。そのなかの1冊に「忘れられた日本人」(宮本常一著 岩波文庫)がある。藤原正彦さんが文藝春秋の「名著講義」で取り上げられていたもので、古い日本人の生きざま、日本人らしさを伝えている。その本の「解説」のなかに、民族学者宮本常一の自叙伝「民族学の旅」からの次の引用がある。

『私は長い間歩きつづけてきた。そして多くの人にあい、多くのものを見てきた。(中略)その長い道程の中で考えつづけてきた一つは、いったい進歩というのは何であろうか。発展とは何であろうかということであった。すべてが進歩しているのであろうか。(中略)進歩に対する迷信が、退歩あるものをも進歩と誤解し・・・。(中略)進歩のかげに退歩しつつあるものを見定めてゆくことこそ、われわれに課されている、もっとも重要な課題ではないかと思う』

 そこには、時代の進展のなかで、日本人のよさが失われつつあることへの憂いがあるのだが、これを読んで、台湾でお年寄りから聞いた日本人評を思い出した。日本人は、身なりは質素で、礼儀正しく、静かに話し、勤勉でしたと。

 私の恩師和田義信氏は、古い数学書「九章算術」や「塵刧記」の改訂されたものを見ると、改められた部分だけ見ればよくなったように見えるが、大きく見ると、原著者の意図が失われて悪くなっているところがあるといわれていた。

 戦後、教育課程が改訂され続けてきたのであるが、日本の教育は進歩してきているといえるのだろうか。今度の改訂も、よいと思えないところがあるのだが、変化だから進歩と思われているような節がある。教材の改訂も行われるのであろうが、目先の手直しに止まらず、真の進歩であるようでありたいものである。


〜図書教材新報vol.60(平成22年4月発行)巻頭言より〜



◇バックナンバー◇

教師と教材/佐野 金吾 〜「図書教材新報vol.59」より〜

痛感する外来語解説教材の作成/新井 郁男 〜「図書教材新報vol.58」より〜

教材の裾野を広げる/川野辺 敏 〜「図書教材新報vol.57」より〜

各団体代表者年頭所感 〜「図書教材新報vol.56」より〜

販売店としてのコンプライアンスについて/清水 厚実 〜「図書教材新報vol.55」より〜

知識を考える/辰野 千壽 〜「図書教材新報vol.54」より〜

父母は習慣の教師なり/菱村 幸彦 〜「図書教材新報vol.53」より〜

ものさし こころざし/杉山 吉茂 〜「図書教材新報vol.52」より〜

若手教員の指導力の向上/佐野 金吾 〜「図書教材新報vol.51」より〜

文字・活字教材と映像教材の間/新井 郁男 〜「図書教材新報vol.50」より〜

ソフトな発想での教材作り/川野邊 敏 〜「図書教材新報vol.49」より〜

図書教材の著作権の尊重を/清水 厚実 〜「図書教材新報vol.48」より〜

メタ認知を活かす/辰野 千壽 〜「図書教材新報vol.47」より〜

学びて思わざれば/菱村 幸彦 〜「図書教材新報vol.46」より〜

これからの教材への期待/杉山 吉茂 〜「図書教材新報vol.45」より〜

各団体代表者年頭所感 〜「図書教材新報vol.44」より〜

「学習習慣の確立」をはぐくむために/佐野 金吾 〜「図書教材新報vol.43」より〜

言語力はスポーツにも重要/新井 郁男 〜「図書教材新報vol.42」より〜

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成果挙げる幹事会の活動/清水 厚実 〜「図書教材新報vol.40」より〜

読解の方略を生かす/辰野 千壽 〜「図書教材新報vol.39」より〜

いよいよ英語教育が始まる/菱村 幸彦 〜「図書教材新報vol.38」より〜

新しい学習指導要領に思う/杉山 吉茂 〜「図書教材新報vol.37」より〜

新学習指導要領の告示と教材/佐野 金吾 〜「図書教材新報vol.36」より〜

「臭い」をどう教材化するか/新井 郁男 〜「図書教材新報vol.35」より〜

「教材作成」二つの視点/川野辺 敏 〜「図書教材新報vol.34」より〜

先生との絆を大切に/清水 厚実 〜「図書教材新報vol.33」より〜

各団体代表者年頭所感 〜「図書教材新報vol.32」より〜

授業の媒体を生かす/辰野 千壽 〜「図書教材新報vol.31」より〜

「理念」は間違っていない/菱村 幸彦 〜「図書教材新報vol.30」より〜

PISAの試験が求めているもの/杉山 吉茂 〜「図書教材新報vol.29」より〜

「児童・生徒一人ひとりの学習状況に応じた教材の開発」/佐野 金吾
           〜図書教材新報vol.28より〜

教師対象教材の開発/新井 郁男 〜図書教材新報vol.27より〜

「教材の多様化」への対応/川野辺 敏 〜図書教材新報vol.26より〜

福利厚生に共済制度の活用を/清水 厚実 〜図書教材新報vol.25より〜

改めて学習効果の転移を考える/辰野 千壽 〜図書教材新報vol.24より〜

遅れるのはやむを得ないが/菱村 幸彦 〜図書教材新報vol.23より〜

教科書使用の自己評価と他者評価/新井 郁男 〜図書教材新報vol.22より〜

基礎の基礎としての読書教材/川野邊 敏 〜図書教材新報vol.21より〜

各団体代表者年頭所感 〜図書教材新報vol.20より〜

出版社、販売店相互の信頼大切に/清水 厚実 〜図書教材新報vol.19より〜

家庭学習のすすめ/辰野 千壽 〜図書教材新報vol.18より〜

“流行り言葉” の教育論/菱村 幸彦 〜図書教材新報vol.17より〜

本・図書・書物・書籍考/新井 郁男 〜図書教材新報vol.16より〜

改めて基礎・基本教材を考える/川野邊 敏 〜図書教材新報vol.15より〜

教材の活用で学力の向上を/清水厚実 〜図書教材新報vol.14より〜

習熟度別指導を生かすには/辰野千壽 〜図書教材新報vol.13より〜

ユニークな日本教育論/菱村幸彦 〜図書教材新報vol.12より〜